カ ー ボ ン 基 礎 知 識

 

 

・ カーボンは軽くない
カーボンでまず連想するのは、F1をはじめとするレーシングカーです。
一般的に「カーボンは軽くて強い」と思われていますが、それは大きな間違いです。
いわゆるFRPに使われているガラス繊維と、いわゆるカーボンに使われているカーボン繊維を比較した場合、単位重量当たりの強度は、わずかにカーボンの方が勝っていますが、
ほぼ同等と言って良いでしょう。
ではなぜ、「カーボンは軽くて強い」等と言う神話が誕生してしまったのでしょう。

・ カーボンは堅い
レーシングカーにカーボンが使われる理由は「剛性」に有ります。
ちょっと理科系が得意の貴方には、当たり前の事ですが、「強度」と「剛性」は違います。
「強度」はどれくらいの力を加えたら壊れるかです。
「剛性」はどれくらいの力を加えたらどれくらい変形するかです。

竹とコンクリートの棒を想像して下さい。
同じ強度の物であっても、竹は剛性が無く、ふにゃふにゃです。
コンクリートは脆いけれども壊れる直前までびくとも変形しません。
これが「強度」と「剛性」の違いです。
竹とコンクリートほどの違いは有りませんが、カーボンの繊維の方が剛性が有り堅いのです。レーシングカーのシャーシなどは、コーナリング中の変形が少ない(=剛性が高い)事が求められる為、カーボンは最適素材な訳です。

・カーボンのエアロのウソ!
前項でカーボンはレーシングカーのシャーシに最適な素材などと書いてしまいましたがだからといってカーボンのエアロパーツを急いで注文しないで下さい。
造っているメーカーがいうのもなんですが、エアロパーツのカーボンは、半分はうそカーボンです・・・・・・・あぁ言っちゃった・・・・・
通常のFRPと称されるパーツは、型にゲルコートを塗り、その上にガラス繊維を樹脂と一緒に積層します。すると、出来てくる製品は表面にゲルコート(多くの場合は白)があって、内側にガラス繊維が入っています。
カーボン製品というのは、FRPで白いゲルコートを使うのに対して透明のクリアーゲルコートを使います。そして、その次にカーボンクロスを1枚積層し、その上からガラス繊維を積層しています。
すると、製品は透明なゲルコートの内側にあるカーボンの繊維が見えるので、「あぁかっこいいカーボンのウイングだぁ〜〜!」という事になるのです。
うそカーボンというのは言い過ぎでは有るが、レーシングカーのように剛性を高める為にカーボンを使用するというよりも、カーボン繊維を見せる為のカーボンなので、過度の期待はできない。
では、まったく性能的にFRPと同じかといえばそうでもなく、当社の製品を例にとれば、
JTCCタイプのリアウイングVerUで、FRP=約2kgに対し、カーボンは1.6kgと20%ほど軽い。
これは、少ないとはいえカーボンによっての剛性が上がった分、ガラスマットの厚みを減らした結果で、製品の強度、剛性に関しては遜色のないレベルである。
他社の製品がカーボンを使用する場合に積層構成を変えているかどうかは分かりませんが、レーシングマシンほどの性能向上を市販のカーボンパーツに求めてはいけないと考えます。

・ドライとウエット
レーシングカーに使われるカーボンと市販エアロパーツのカーボンの違いは、もっと根本的なところが違うのです。
レーシングカーのカーボンは、熱硬化性のエポキシ樹脂をカーボン繊維にしみこませたもの(とろけるチーズのシート状のもののもっと薄いものみたいな感じ)を使うところからドライカーボンとも呼ばれます。
普通のエアロパーツはポリエステル樹脂を使います。
エアロパーツはガラスマットに樹脂を浸み込ませてそのまま固めるようなものです。
イメージとして薄い蜂蜜くらいの粘度の樹脂を分厚いガーゼに浸み込ませて積層して固めるような感じで、ウエットレイアップと呼ばれます。
ドライカーボンは簡単に言うと、シート状のカーボンを型に貼り付けた後で全体を袋に入れて真空ポンプで引いて加圧します。
そして、温度が上がっていくとエポキシ樹脂の粘度が一旦下がりあふれた部分を真空ポンプの圧力で吸い取るようにして、そのまま固めちゃうので、樹脂少々の中にギッチリ繊維が入った状態で固まります。
だから、軽くて強いんです。
たとえば、水を一杯含ませて凍らせたスポンジと、水を含ませて重しを乗せてぺちゃんこにしたまま凍らせたスポンジとをイメージしてください。
前者がウエットレイアップ、後者がドライの出来上がりみたいなものです。
ちょっと説明がわかりにくかったかもしれませんが、こうして作られたドライの製品とウエットの製品は、単位断面積辺りの繊維の量が違うので、強度、剛性ともに違いますし、手間の掛かり具合も使う機材もえらく違うので、それがそのままコストの違いになります。
同じ部品の製造コストを考えるとゼロ一つ違ってきます。
当社のJTCCタイプリアウイングVerVも、ドライカーボンの設定がありますが、カーボンの4倍強の価格設定ですが、一番儲からない商品です。

・カーボンは万能ではない
カーボンは剛性が高いと書きました。
強度はガラス繊維と大差ないとも書きました。
実際素材メーカーのカタログなどを見ると、繊維の引っ張り強度はカーボンの方が5〜10%高い数字になっています。 そして破断するまでの伸びはカーボンは殆どなく、ガラス繊維はかなり伸びています。
もっと特徴的なのはケブラーという商品名で有名な黄色いアラミド繊維です。
強度も弱いけど無茶苦茶伸びます。
だから、ケブラーはレーシングカーよりも防弾チョッキの方がより良い活躍の場なのです。
1990年代の話ですが、「有限」の反対の名前のホンダ系のメーカーで、バケットシートの強度試験をした事がありました。
FRP製のバケットシートの背中を押して何キロの荷重で壊れるかという実験でした。
その時、同じFRPのシートにカーボン繊維で補強したものを作り、破壊実験した所、補強しないものより小さな荷重で壊れてしまいました。
「造り方がますかったんじゃぁ・・・・?」という声に憤慨して、もう一度作り直しても同じ結果でした。
実は当然なのです。
荷重が掛かれば、ガラス繊維は伸びながら荷重に耐えるのですが、カーボンは伸びないで荷重に耐えるので、カーボン繊維が「参った!」とブチ切れるまでは、ガラス繊維には保頓悟荷重は掛かっていなかったのです。
そして、カーボンがブチ切れた瞬間に衝撃荷重がガラス繊維に掛かってしまい、ガラス繊維の方も「参った!」といって切れてしまったのです。
この時は、ヘリコプターのローターなどにも使われる高張力ガラス繊維で補強する事によって強度は格段に向上しました。

・カーボンは万能ではない2
市販車ベースではないレーシングカーのシャーシはカーボンコンポジットで作られています。理由は前に書いたとおりです。
そして、ボディカウルも殆どカーボンです。
日本のGT選手権などで使われているボディもカーボン製が殆どだと思います。
そこでいつも思うのですが、そういうレーシングカーを創っているエンジニアも、もしかしたらカーボンの知識がそれ程ないんじゃないかと思うのです。
「とりあえずカーボンにしときゃいいや」みたいなノリが有るんじゃないかと思います。
剛性が欲しいから、カーボンでシャーシを作る事は理解できます。
しかし、ボディはぶつかった時にすぐにバラバラにならないである程度粘ってくれた方がいい場合の方が多いはずです。
ならば、シャーシはカーボンで、そしてボディーカウルはガラス繊維のコンポジット製法にした方が、重量、強度、特性の面から良いのではないかと思われます。
近い将来、年明けの新型マシーンのシェイクダウンのスクープ記事の写真に写っているレーシングマシンのカウルがカーボンの真っ黒じゃなくて、ところてん位の黄色味のある半透明なボディだったら、きっとそれはガラス繊維のコンポジット製法のボディでしょう。
それを見たあなたは、「あぁこのチームのエンジニアも素材の勉強したんだなぁ」と思うかもしれません。


つづく・・・・ To be continue

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